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旅をして初めて、「生きる」ことができる 竹沢うるま | 沖縄【後編】

「大地と人の繋がり」を求めて世界中の国々を旅する写真家。生命の輝きを最大限に引き出すリアリティにあふれた写真の数々は、私たちを惹き付けてやまない。

■竹沢 うるま (たけざわ うるま)
1977年生まれ 男性
職業:写真家
初一人旅時期: 1995年 当時18歳
行き先: 沖縄県 伊江島

2013年1月、103ヶ国 1021日に及ぶ世界一周の旅を終えた写真家 竹沢うるまさん。そして2013年8月、その旅で撮影された35万点の写真から280点を厳選した、渾身の写真集「Walkabout」が発売されました。「Walkabout」に込めたメッセージ、旅の原点となった沖縄県 伊江島(いえじま)の経験、そして3年間の旅を経て見つけた“自分の場所”。表現者ならではの世界の見方を語ってくれました。

前編はこちら:旅をして初めて、「生きる」ことができる | 竹沢うるま【前編】

出会いに始まり、出会いに終わる

019_8 -旅を途中でやめようと思ったことはありますか?

それは一回も思わなかったですね。ただ、早く終わらないかな、とは何度も思いました。苦しかったです。

-その苦しさはどこからくるんですか?

旅人って、どこに行っても「ストレンジャー」でしかないんですよ。自分自身が大地と繋がっている感覚がない中で旅をするのは辛いことです。どんなに心をフラットにしてその土地に溶け込んでも、いつかは出て行かないといけない。3年間ずっと自分の居場所ではない。それが辛くて、早く終わらないかなとずっと思っていました。

-それでもやめようとは思わなかったんですね。

旅に出た以上は、南米、アフリカ、中東、ヨーロッパ、ユーラシアを回るという地理的な行程は必ずクリアしようと自分の中で決めていました。最終的には苦行に近いですよね。

-旅を終わらせる直接のきっかけは、何かあったんですか?

さっきのは地理的な話であり時間的な話であって。そこに一つ、心理的な要因というのもあるわけですよ。地理的には旅はどんどん先に進んでいく。でも自分の心はまったく終わりに近づいていなかった。そのギャップでずっと悩んでいました。そのときに、チベットである青年に出会いました。

-チベットで何があったんですか?

詳しい話(*)は長くなるので避けますが……。自分自身の無力感とか、人のやさしさや精神世界の深さに同時に触れる出来事があって。これ以上の心の振幅には、その旅の中ではもう出会うことはできないだろうと直感的に思いました。そのとき初めて、旅を終える決意ができました。

-3年間の旅の中で、一番衝撃的な出会いだったんですね。

さっき、旅の本質は出会いの連続性であり世界の連続性という話をしました。僕が幸せだったと感じるのは、出会いの中で旅を続けていくことができて、出会いで旅を終わらせることができたこと。最後の出会いは、とても悲しい出来事でした。でもあの出会いがなければ、きっと旅をちゃんと終わらせることができなかった。今頃悶々としていて、もう一回旅に出ようかなと思っていたかもしれません。

-心理的な面で「旅を終わらせる」というのはとても難しいことなんですね。

旅を終わらせることができなくて、帰るきっかけをなくして何年も沈没してしまう人もたくさんいますからね。1年を超えてしまうと旅が日常になるので、そのあとは2年も3年も一緒です。だからこそ終わらせるタイミングが難しい。

旅で見つけた“自分の場所”

019_9-「“世界のどこかに自分自身の場所があるんじゃないか”という思いをずっと持っていた」という話をされていましたよね。3年の旅の中で、「自分の居場所」は見つかりましたか?

いつも新しい場所に着くたびに、「ここじゃない」「あそこはどうだろう」と常に思っていました。あの山を越えたら自分の場所があるかもしれない、この川を下ったらあるかもしれない。それも一つの立ち止まらない理由でした。

でも今思うのは、そんなの結局どこにもなくて幻想でしかない。重要なのは自分自身がどうやって生きるのかということと、自分自身の中に世界を持つことです。

-自分の中にですか?

いろんな世界を見ていろんな経験をして、いろんな人に出会って悩んで考えて、そうやって自分の中に世界のかけらのようなものを取り入れていく。そのパーツを心の中で組み合わせると、そこに一つの世界ができます。それこそが自分の場所なんですよね。自分の中に一つの世界を構築できたとき、初めて「自分だけの場所」というのが生まれます。

-世界に自分の居場所を探すのではなく、自分自身の心の中に作っていくものなんですね。

僕は18歳で初めて沖縄に行って、その後何度も海外に行って、その上に3年間の旅を経なければ、それに気づくことができなかった。この旅を終えて、ようやくそれが分かったんです。

-じゃあ、これからはもう旅に出ることはないんですか?

今は正直どこに行っても同じだと思っているし、特に行きたい場所があるわけでもありません。一種の虚脱感というんですかね、「次はどこに向かえば良いんだろう」とは思います。

-「自分の場所」を見つけられても、心に平穏が訪れるというわけではないんですね……。

そうですね。でも、また旅に出ればきっと何かに出会えるだろうというのは分かります。そのうちまたどこかに行きたくなるでしょうね。

「Walkabout」で伝えたかった、「生きる」ということ

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-私くらいの世代は、日本が豊かすぎて何でも手に入りすぎるからこそ、うるまさんのように「自分がいる場所はここじゃないんじゃないか」と感じている人が多い気がしています。

僕はね、「Walkabout」の中で一番表現したかったことが何かというと、「生きる」ことなんですよね。日本にいるとなかなか実感できない「生きる」を感じたくて、みんな旅に出るんだと思います。

-“生きる”というのは、具体的にどういうことですか?

僕らが「生きる」という意味合いと、例えばアフリカの人が「生きる」という意味合いは根本的に違います。僕らの言う「生きる」って、付加価値の「生きる」でしかなくて。どうやって幸せになるか、どうすればもっとよく生きられるか。生命は維持されるという絶対条件の上に、それをどう動かすか、ということでしかないんです。

-他の国ではそうではないんですか?

アフリカはそうではなくて、まさしく「生きるのか死ぬのか」の世界。人間には、一つの生物として、生きていることを実感したいという欲求があると思うんですよ。それがあまりにも僕らには欠けているわけです。そして、欠けているものを補う一つの形として、旅がある。

写真集の帯に、沢木耕太郎さんの言葉で、「甘い死の匂いがする」って書いてあるんです。本当の意味で人が「生きている」場所というのは、すぐ近くに「死」があります。死の匂いが強ければ強いほど、生きることの輝きが強くなる。僕はずっと無意識にそれを求めていました。

-「心の水面が動く場所=死(生)の匂いがする場所」ということですね。

僕は、「甘い死の匂い」を無意識に感じ取って写真に収めていました。そのうち僕自身が「甘い死の匂い」を発し始めていて、それが写真にも写り込んでいたんだと思います。沢木さんはそれを言葉に置き換えてくれました。

僕も、日本社会の中では生きることができませんでした。大げさですが、旅をして自分自身の力で生き抜くことで初めて、生きている実感が持てるんです。

-旅に出ることは、そのまま「生きる」ことに直結するんですね。

その代わり、帰ってきたあとの虚脱感はありますけどね。旅をすることによって一瞬だけでも生きている感覚を得て、日本に帰ってくると、「ああ……」って(笑)

それでも旅に出る理由

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-私は、旅に出る人をもっと増やしていきたいという思いを持っていますが、旅が世界に与える影響というのは何だと思いますか?

そうですね。なんて言うんですかね……旅っていうのは、自己完結なんです。自分の内面性の問題でしかない。自分が満足したのかしていないのか。旅は、言ってしまえば道楽でしかない。世界中の人が、僕が旅をしようがしまいが関係ない。世界は動き続けるし変わらない。

-旅で世界を変える、というのはベクトルが違うということでしょうか?

旅をすればするほど、余計なものを削ぎ落した「自分自身」になっていきます。自分には何が必要で何が必要じゃないか、旅をすることではっきりしてきます。その作業はすごく大切で、それも一つの旅をする意味だと思います。

-最初は誰しも夢を持って出発しますが、旅をすればするほど現実の部分だけが残っていくんですね。

そう。旅の終盤で東南アジアに行ったとき、旅にでて間もないきらきらした旅人にたくさん会いました。それを見ると、「ああ、いいなあ」って。向こうからしたら「絶対あんな(僕のような)醒めた旅人にはならない」って思ったはずです。あんな夢のない旅人にはならないぞって。でもなるんですよ(笑)

-なるほど……。最後に、それでも旅に出る理由というのはなんですか?

突き詰めていくと、やっぱり僕は旅に出ないと落ち着かないんです。旅に出る理由というのは、いつだって後付けでしかない。「自分だけの世界を見つけるため」とか「本当の自分を見つけるため」とか、そんな理由は後からつけ足しただけで、本当は旅に出ないでじっとしていたら落ち着かなくて、外に出たくてうずうずしてしまう。だから旅に出る、というシンプルなことなんだと思います。

今は長い旅を終えて、また新たな旅に出ようとはなかなか思いませんが、来年あたり、また新しい写真を求めて次の旅を考え始めるかもしれません。

-「行きたい」というシンプルな思いが一番の原動力なんですね。旅だけでなく生き方に通じるような、深くて心に響く話でした。今日はありがとうございました。

ありがとうございました。

(インタビュアー:鼈宮谷)

 

*竹沢さんが旅を終えるきっかけとなったチベットでの出会いは、写真集「Walkabout」のあとがきで読むことができます。“生きる”に満ちた280枚の写真たちは必見です。

竹沢うるまさん
公式サイトはこちら
Walkaboutはこちら

 

019_info

竹沢 うるま Uruma Takezawa

ルート: 沖縄県 伊江島
期間: 1ヶ月
費用: -
航空会社: -

 

参照元:Travelers Box

TRIP