更新停止中です

旅とは、相手のことを知ること 松下 照美 | ケニア【後編】

ケニアのビール「TUSKER」を片手に人生という旅を語ってくれる尼さんルックスのケニア在住ゴッドばあちゃん。御歳67歳、アフリカ在住歴20年弱。小さな体には似合わない壮絶な人生にどの世代も圧倒され、彼女の生き方に惹かれる。

1945年生まれ 女性
職業:ケニア政府NGO モヨ・チルドレン・センター 代表
初一人旅時期: 1994年 当時49歳
行き先: モンゴル・ウガンダ

初めての海外一人旅は、49歳の時。大切なパートナーの遺骨を、彼のイメージにぴったりなモンゴルの草原が広がる1本の大きな木の下に埋めてあげたいという思いから。その日までは海外とは無縁だった照美さんは今、日本から遠く離れたケニアで、ストリートで出会った子どもたちと生活を共にし、マダム・テルミと敬愛される存在です。彼女の旅のストーリーは、地域を旅することに留まらず、生きること・人生に必要なもの をシンプルに考えさせられる内容でした。

前編はこちら:旅とは、相手のことを知ること | 松下 照美 【前編】

初めての海外一人旅は、パートナーの遺骨を埋めるため

021_8-初めての海外一人旅について教えてください。

もともと海外に興味がなかった私が旅をするようになったのは、「必要があったから」でした。旅を意識して旅に出たっていうより、海外に行く必要があったんですね。私が47歳のときにパートナーが亡くなって、その遺骨を埋めるために、1994年に初めて1人で海外に行きました。
-大きなミッションを背負っていたのですね。

2人とも御墓は作らないと話していたので、お骨が帰ってきてどうしようかと思って。思い浮かんだのは、このお骨をモンゴルに埋めようということでした。彼は馬頭琴や馬、それから大きな木がとても好きだった。イメージは、モンゴルの広い草原の大きな1本の木の下。そこにお骨を埋めたいなと思って。

-彼が喜ぶ場所を考えたんですね。

ここかな? というイメージが湧いてきて、パスポートを取るところから始まりました。

-初めての一人旅はモンゴルなのですね。

けれども、モンゴルって言ってもイメージだけで動いているものだから……とりあえずパスポートを取らなきゃいけないことは分かったんだけど、どうやってモンゴルまで行けばいいのかは全く分かりませんでした。

-近場にひょこっと行くのとは違いますもんね。

本当に偶然だったんだけれども、ラジオを聞いてたら、私が当時住んでいた村の隣の村がモンゴルとの交流があったの。野球交流があったらしく、モンゴルから人を受け入れているようでした。

-すごい偶然!導かれているとしか思えないですね。

その関係でモンゴルから馬頭琴の演奏が来るとラジオで流れたので、とりあえず行ってみようって。なんか手がかりがあるかもと思い、その村まで行ってみたんです。

-ラジオを聞いて山を越える……! その時すでに旅は始まっていたんですね。

外部の村から来ていたのは私一人でした。演奏を聴いた後、皆さんにモンゴルの情報を得たいと思っていることを話したら、一人の方が、何かお手伝いできるかもしれないって言ってくださったんです。

-行動するといい出会いがあるものですね!

その方がたまたま東京外語大学のモンゴル語の先生だったんです。モンゴル語入門の本を1冊だけ買ってたんだけど、その著者の方でした(笑)。

-えー!すごい偶然ですね。興奮しちゃいました。

でしょ? そしてその方が、東京外語大学に客員教授として来ていたモンゴルの方の家を訪ねたらどうかって言ってくださって。奥さんがモンゴルにいるからと、受け入れてもらえることになったんです。奥さんの実家は中心部から離れた村だからって。

-イメージしていた草原が広がるモンゴルの村ですね。

その奥さんの一族の方が住んでいるゲルがあって、そこに行かせてもらうことになったの。

-話がトントン拍子進んだのですね。

そんな助けもあってモンゴルに旅立つことになったんだけれど、ちょうど準備が整ったと同時に、映画の撮影に同行しないかという話ももらいまして。

-映画の撮影?

小林茂監督の映画『チョコラ』の撮影でアフリカに行くとのことで、それにも気持ちが揺れたんです。それで、モンゴルに3ヶ月滞在する予定を、1カ月に変えて、アフリカへも行くことにしたんです。

たったこれだけのものでも豊かに生きられるんだ

021_9

-初めての海外一人旅は、モンゴルとアフリカになったのですね。

そう、その一連の旅が私の初1人旅。モンゴルはやっぱりすごかったです。人間ってここまで物が少ない中で生きていけるのかって思いました。食器は1人1つずつ。1人の生活に必要なものは、大型スーツケースに収まる程度でした。

-ムダのない、シンプルな生活の極みですね。

馬の皮までも馬頭琴という楽器にしたり、本当に無駄のない、あらゆるものを大切に使う人たちでしたね。人って、たったこれだけのもので、豊かに生きていけるんだって。

-目の当たりにして分かったのですね。

物質的には多くないけれど、モンゴルの人は本当に心があったかくて。もう帰るときもお互い涙なくして別れられなかったですね。大人も子供もみんなそうでした。子供たちと過ごしたのもいい思い出です。

-目的だったパートナーの遺骨を埋めることは?

それはね、実はちょっと違うなと思って。

-どうしてですか?

草原の真ん中にたたずむ1本の木はあったんだけれど、なんか彼のイメージとは違うなと思って。なので遺骨は未だに持っているのです。

-きっとモンゴルでいろんなことを感じるキッカケを与えてくれたんですね。

そうですね。遺骨はアフリカの後、インドを旅した時に少しだけ散骨させてもらいました。

-パートナーとの旅は続きますね。

旅は相手のことを知ること

021_10

-照美さんにとって、旅に出る価値とは何でしょう?

旅をすると、国を国名としてではなく「自分の訪れた地域」として捉えたり、人間一人ひとりを固有名詞で見られたりするようになると思います。そういう見方をすると、ニュースなどでその地域を見た時によそ事に感じないと思うの。旅とは、相手を知ることだと思うんです。

-相手を知ること、というのは?

旅をすることで、「知らない場所」が「知っている場所」になります。例えば、○○という国が「友人の××さんのいる国」になる。

どんな地域でも、そこに住んでいる人々の生活があることを知ると、世界の平和を願わずにはいられなくなります。ましてや、戦争しようだなんて思わなくなりますよね。

-世界で起きていることの見方が変わりますね。

旅とは、相手のことを知ること。知ることが平和に繋がるのだと思います。

-旅の持つ力を改めて感じました。

日本を離れるだけでも意味があるかもしれない。今までどんなに大切なものが身近にあったか、自分がどんなに愛されていたかを、振り返ることにもなります。そういう感情は、旅に出ないとなかなか気づくことができないと思うの。

-たしかに、旅先での経験だけではなく、帰国後の生活にも大きく影響しますよね。

本当に大切なこと以外は削ぎ落されていく

021_11

-初めての一人旅に出られてから照美さん自身変わったなと思うことはありますか。

物に執着せずとも、生きられるんだということを学んだり、その後もいろんな地域を行き来してさまざまな人の生きる場を見させてもらうことによって、本当に大切なこと以外はどんどんと削ぎ落とされていった気がします。

私はいつもどこへ行く時も、基本一人だから、助けられたり、逆に役に立ったりすることがある。そんな中で、だんだんと自分がシンプルになっていくっていうのかな。自分の中に少しずつ、生き方の核みたいなものができていった気がする。

-今の照美さんの子供達との活動にも活きているのでしょうね。

子供たちとの生活の中で守らなければならないものは、旅の経験の中で身についたと思います。結局人はみんな一緒なんだということとか。

-余分なものがなくなっていくと、誰でもみんな同じ部分が残るんですかね。

国民性とか、合う合わないという部分はあるだろうけれど、結局日本にいても海外にいても、合う人は合うし、合わない人は合わない。

-そういう意味では国とか国境っていうのは、あまり意識しなくていいのかもしれませんね。

今NGOをしていると、毎月1人は日本の学生などがアフリカまで私の活動を見に来てくれるんです。最近は、国境を超えるというハードルが低くなってきているかもしれないですね。

-照美さんの活動や、人柄に魅力を感じたことがキッカケになっている人も多いでしょうね。

学びたいという思いを持って来てくださる方がいるのは有難いですね。現在はモヨ・チルドレン・センターの近くの大学から頼まれて、実習生の受け入れもしているんです。

-現地のケニア人ですか?

そうです。彼らにとっても、日本人の私のところで学ぶことはある意味国境を超えていますよね。私がいることによって、日本とケニアの学生が一緒に活動する機会になっていると考えると、とても面白いと感じます。

-照美さんの活動を知った時、きっと20〜30代からNGOやアフリカに携わっていたのかと思ったのですが、そうでないことに驚きました。

全然違いますよ(笑)。47歳で訪れたモンゴルやウガンダがキッカケです。特にウガンダで出会った子どもたちが、私をアフリカに惹きつけた気がします。現地の言葉も分からなかったし、私がウガンダでできることなんて本当に多くはなくて。

だけれども、ある8〜9歳の子供が、妹を亡くしたという電話を受けた場に居合わせたことがあるんです。その子が村に帰ることになって、わんわん泣いている場で、ただ抱きしめることしかできませんでした。けれど、抱きしめることはできるんだっていうことが分かったんです。それが私とってとても印象深くて、「この子たちは私を必要としてくれているんだ」って強く感じた瞬間でした。ただそれだけの気持ちで今に至るから、NGOなどという言葉は全く意識していませんでした。

-そんな経験が今の照美さんに繋がっているのですね。

理屈じゃない、その時の思いだけですね。だから長続きしています。思いは消えないからね。それにケニアでもウガンダでも、私を必要としてくれる子供は後を絶たないんです。こうなると一生向こうにいるんだろうなと感じています。

-照美さんにとってそれはすごく自然なことなのですね。

たまに「すごく大変なことをされていますね」と言われるんだけど、答えようがなくって。一生を共にできる子供達が現地にいるとしか答えられないですね。それが私のやり方、生き方なんだと思います。

やらなくて後悔したことはない

021_12

-お話を聞いて、何歳になっても自分の気持ちに素直になれば何だってできるんだと勇気をもらいました。

どこに人生のキッカケがあるか分からない。私の場合は、今振り返るとそれが旅だったんですね。何でもやらないで後悔するより、やりたいことは絶対にやった方がいい。やらないで後悔するのが一番もったいないですよ。

-そういう意味では、後悔のない人生ですね。

全くないですね。67歳の今まで、何かをやらなかったことで後悔したことはないです。

-是非その言葉を、1人旅に出てみたいと思っている人たちへ伝えさえてください! 本日は、本当にありがとうございました。

次はぜひアフリカでお会いしましょう。

 

(インタビュアー:梅村 恵)

 

松下さんが代表をされている「モヨ・チルドレン・センター

021_info

■松下 照美(Terumi Matsushita)

ルート: モンゴル→ウガンダ
期間: 3カ月(モンゴル:1カ月・ウガンダ:2カ月)
費用: -
航空会社: -

 

転載元:Travelers Box

TRIP