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全てが新鮮で刺激的で、楽しくてしょうがなかった|村上涼

作家・沢木耕太郎の著書に衝撃を受け、彼と同じルートでのベトナム一人旅を試みるも、ホーチミンの空港に降り立った 瞬間の気持ちは「日本に帰りたい……」。「超びびり」を自認する村上涼さんですが、持ち前の柔軟性を発揮し、最終日には「帰りたくない」と思うほど実りのある 旅に。必ずしも楽しいだけではない、けれども刺激とわくわくに満ちた、素敵な10日間の体験を語ってくれました。

村上 涼 Ryo Murakami
旅をはじめ、文学、演劇、アウトドアスポーツなど、興味のアンテナは幅広い。「生涯学習&生涯スポーツ」をモットーに、その行動力は留まるところを知らない。
―――Profile―――
1974年生まれ 男性
職業:高校教員
初一人旅時期: 1993年 当時19歳
行き先: ニュージーランド

 

「深夜特急」との出会い

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昔は、むしろ海外は嫌いでした。両親が旅行好きで、小さい頃から結構いろんな所に連れていかれたんですけど……。

-え、それは羨ましい限りですが。

でも、全っ然楽しくなかったんです。本当に行きたくなかった。怖いし、変なもの食べさせられるし。 今思うと、その時期があったからこそ、今の旅好きの自分があるような気もするんですけどね。

-そこから、自発的に海外に行こうと思ったのは?

僕、大学が推薦入学だったんです。いわゆる受験をしなかったので、高校3年生の後半にまとまった時間ができて。 ひたすら図書館にこもって本読む日々。で、そこで沢木耕太郎さんの「深夜特急」に出会いました。

-旅好きのバイブルですね!読んでみて、どうでした?

本当におもしろかったし、憧れた。よし、自分もいつか絶対一人でこんな旅するぞって思いました。 深夜特急に影響されたっていうのは、旅好きの多くの人がそうじゃないかな。

-読むと旅したくなりますよね。

そうですね。でも、その後大学生になってからも、なかなか実行に移せなくて。

-どうしてですか?

僕、本当にびびりなんですよ。海外一人旅をする人って、みんないきなり行くじゃないですか?何も考えないで。 でも、それができなかった。最初から一人で海外に行くのは怖かったので、大学生になってしばらくは、国内一人旅をよくしていました。

-まずは国内で慣らしてから、と。

はい、あと日本史が好きなのもあって。しばらく国内をぐるぐるしていました。で、いつだったか忘れちゃいましたが、これも同じく沢木耕太郎さんの 「一号線を北上せよ」を読みまして。ベトナムを、ホーチミンからハノイまで縦断する旅行記。それもすっごく面白くて。

-また海外熱が高まった?

深夜特急の、香港からロンドンまでの旅は、ちょっと真似できそうにないですけど、ベトナム縦断なら自分もできるかもって思ったんです。 今でもそうなんですが、誰かの憧れに憧れるっていうのかな?そういうのが、旅の原動力としてある気がします。

 

初日の洗礼に、早くも「帰りたい……」

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で、意を決して、ベトナム行きを決めました。「一号線~」と同じ、ホーチミンからハノイまでの縦断コースでした。それが、大学4年生のときですね。

-深夜特急との出会いから4年目にして、ついに旅立ったんですね!

日本で一人旅の経験値をそれなりに積んだので、同じような感じだろうと思って、気軽な感じで出発しました。旅行会社で航空券だけ手配して、ホテルも決めず。 そこまではよかったんですけど……。

-よかったんですけど?

向こうの空港に着いた瞬間、「あ、なんかやばいな」って。

-急に怖くなったと。

もう、「死ぬほど帰りたい!」と思いました(笑)国内の一人旅の経験は結構あったので、まあ同じ感じだろうと思って行ったんです。だから、より一層 カルチャーショックが大きかったというか。日本とは全然違っていて。

-例えばどういうところですか?

まず、空港出たとき、ものっすごい声かけられるんですよ。タクシーの客引きとか、ホテルのお兄さんとか。日本だと、あんまりそういう経験ないじゃないですか?  どうすればいいかわからなくて、とりあえずタクシー乗り場の脇に座って、「どうしよう……」って、途方に暮れていました。

-その状態から、どうやって抜け出したんですか?

ずっと座っていたら、香港人の男の子が声かけてくれたんです。「ホンくん」だったかな?僕、英語全然できないんですが、どうやら「町の中心地までタクシー相乗りして行こう」 と言っているみたいで。怪しい人かもしれないけど、とにかく町に出ないといけなかったし、ついていってみようと思って、一緒にタクシーに乗りました。

-相当切羽詰っていたんですね(笑)

はい。タクシーの窓から景色が流れるのを見ながら、ホテルも電車のチケットも取ってないのに本当にハノイまで辿りつけるんだろうか……って、 ものすごく不安になったのを覚えています。

-無事に目的地に到着できましたか?

ホンくんのおかげで、デタム通り(町の中心地)にたどり着くことはできました。で、次の関門が宿探し。

-宿探しはどうやって?

とりあえずホテルの看板が出ているところに入って、部屋を見せてもらって、つたない英語でなんとか値段交渉やらチェックイン手続きをして、ようやく寝床を確保しました。 もうね、半泣きでした(笑)部屋に入ってベッドに倒れこんで、そのまま寝ちゃった。それが1日目です。

 

気持ちを立て直すきっかけは、意外な所に

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次の日の朝も、ドキドキしながら外に出ました。まずね、何が一番嫌だったかというと、タクシーとかシクロ(自転車タクシー)の客引き。3歩歩くごとに 声をかけられるのが鬱陶しくて。嫌だというか、どう対処していいかわからなかったんですよね。

-日本ではあまりそういう経験はしないですもんね。

ただ、さすがに、せっかく来たのにこんなんじゃだめだ!と思って。そこで何を血迷ったのか、気持ちを立て直すために、動物園に行ったんです。

-ベトナムで最初に行ったのが動物園(笑)珍しいですね。

動物見て落ち着こうと思って(笑)動物園なら、タクシーの客引きもいないし。

-気持ち立て直りましたか?

それが、かなり気持ち立て直ったんですよ。なんか冷静になることができて。日本の価値観のままでいるから楽しめないんだ、もっと気持ちをまっさらにしないと いけないんだって気づいたんですよね。日本の基準で物事を捉えているから、客引きが鬱陶しいし、交差点も上手く渡れないんだって。 郷に入りては郷に従え精神が目覚めたんです。

-動物園で一体何があったんですか?(笑)

何なんですかね。でも、本当そこからガラっと変わって、その日の夜には旅を楽しめるようになっていました。町中で声をかけてくる人も、 軽くかわせるようになったし、路地を歩いて市場とか屋台を見るのも、すごくわくわくした。

-そうなったらもう無敵ですね。

はい、どこでご飯を食べようかとか、寝台列車にどうやって乗るのかとか、関門はたくさんありましたけど、全てが新鮮で刺激的で、楽しくてしょうがなかったですね。

 

楽しいだけが旅じゃない

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-心に余裕ができてから、どんな風に旅を楽しんだんですか?

旅するにあたって、テーマというか、「こんなふうに旅したいな」というのがあって。一つ目は、バックパッカーと呼ばれる人は結構そういう傾向がある気がしますが、 現地の人が行く場所に行って、現地の人が食べているものを食べて、その場所をより深く知ること。観光客向けじゃない市場に行ってみたり、露店でよくわからない食べ物を食べてみたり、表面的でない旅をしたかった。

-それは実現できましたか?

はい。色んなものを食べてお腹壊したりもしましたけど、自分のアンテナの向くままに、土地の直の空気を感じられたと思います。で、二つ目は、 目を背けたくなるような事実にも、ちゃんと向き合うということ。

-どういうことですか?

海外旅行によく連れていかれていた小学生の頃、父親がいつも、「楽しいだけが旅行じゃないぞ」って言っていたんです。今でも鮮明に覚えているのが、中国で南京大虐殺の記念館に行ったときのこと。 館内で、現地の修学旅行生の集団と居合わせたんですよね。で、僕たちが日本人というのは、見ればすぐわかるわけです。

-微妙な空気になりますね。

そう。「日本人だぞ」っていう目で見られて、何とも言えない気持ちになったのを、とてもよく覚えています。全てが全て歴史的事実かと言えばそうではないかもしれないけど、 それとは関係なく、なんだかもやっとした気分になったんです。

-その経験が、ベトナムにも繋がっているんですか?

ベトナムは悲惨な戦争がありましたよね。そういう歴史の影の部分をちゃんと知りたいと思ったのも、ベトナムを選んだ理由の一つでした。ホーチミンの戦争博物館に行ったんですが、 枯葉剤の爪痕が生々しく伝わってくるような展示があったり、砲弾がそのまま置かれていたりして。そういうのを見て、あぁ自分は何も知らないんだな、と。

-ベトナムに限らず、どの国も色々な背景があった上で、今が成り立っているんですよね。

そう。知ることで自分が何かできるのかって言われたら、何もないのかもしれないけれど、まずは知ることから始めたいです。 もっと知りたいしもっと学びたい。そういう思いは、他の人と比べて、強いほうかもしれません。

 

「寂しい」と思った自分にびっくり

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-他に、何か印象に残っている出来事ありますか?

なんだろう……。色々なことがありました。ハプニング系で言えば、お腹を壊して公衆トイレに駆け込んだら、トイレットペーパーがなくて、 「地球の歩き方」の後ろのほうを破ってペーパー代わりにしたこととか(笑)

-海外に行くと、トイレットペーパーの価値を実感しますよね。

あれはかなりピンチでした。それから、長距離列車に乗ったときに、駅名のアナウンスもなければ停車駅の看板もなく、どこで降りればいいのか 全然わからなかったこととか。駅員さんに何回も、「まだフエじゃない?」って確認したり。

-電車一つ乗るのも、海外一人旅では冒険ですね。

他にも、ベトナム独立記念日のお祭りに居合わせて、人波にもみくちゃにされたりとか、ゲストハウスの部屋ででっかいゴキブリに出会ったりとか、 ハプニングだらけでした。

-嫌にならなかった?

なんかもう、そういうのも全部ひっくるめて楽しいんですよね。楽しいというか、刺激的でヒリヒリするみたいな感覚。初日は、早く帰りたいとしか 思えなかったんですけど、いざ最終日になったら帰るのが本当に寂しくて。そう思ったことに、自分が一番びっくりしました。

-今更ですけど、一人で行って良かったですか?

うん。何人かで行く旅も、それはそれで良さがあると思うんですよ。二人のほうが、一人よりも行動範囲が広がることとか。ただ、僕自身は、 一人で行って良かったです。それは自信を持って言える。

 

そのとき一番やりたいことをやる

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-その後も一人旅していますか?

ベトナムの翌年に、1ヶ月くらいヨーロッパを旅しました。期間は長かったけど、ベトナムに比べたら快適で楽でした。そういう意味でも、 最初にベトナムの洗礼を受けておいてよかったかもしれません。あとは、来週(2012年10月時点)からインドに行ってきます。

-インド!どきどきしますね。

今は正直恐怖しかないです(笑)今、奈良に住んでいるので、嫌でも仏教に詳しくなるんですよ。なので、インドの中でも、仏教の聖地と呼ばれる地域に 行きたいと思っています。

-もう、旅がライフワークになっていますね。

ただ、僕自身は、海外にこだわりがあるわけではないんです。「そのとき一番興味があることを、一番やりたいと思ったときにやる」というのを大事にしたい。 フットワークは軽く、ですね。

-まずは何事も一人で飛び込んでみる。無理だと思ったら、とりあえず動物園に行く、ですね。

そうですね(笑)

-今日はありがとうございました。これからも旅を楽しんでください!

ありがとうございました。

(インタビュアー:鼈宮谷)

 

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村上 涼 Ryo Murakami
ルート:ホーチミン→フエ→ハノイ
期間:11日間
費用:8万円
航空会社:チャイナ・エアライン

 

転載元:Travelers Box

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